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トピックス

〔随筆〕吉成庸子物語【2024年4月号2面】

2024-04-04
カテゴリ:コラム,連載
テントの中のお花見
桜の花が咲き始めた。この花の季節になると、私は何故か日本に生まれて良かったなあと思う。
儀ちゃんも桜が大好きで前にも書いたことがあるが、河津桜、山桜、しだれ桜、八重桜と庭に植えている。だから早咲きの桜から一番遅い八重桜とこの季節我が家の庭はいつも桜の花が咲いていた。

他の桜は私が嫁いで来た時にはすでにあったが、しだれ桜だけは私が儀ちゃんの女房になって十年たった頃我が家にやって来た。すでにかなり大きな木だったので、まず庭に持ち込むのが大変だった。
おまけに私の家の庭の周りは道路がそんな広くないのでご近所の迷惑を考えるとホント身が縮んでしまった。私はご近所にお詫びとお願いに二回程行った。皆様いい方ばかりで笑って許してくれた。

そんな事があって我が家の庭の真ん中に植えられたしだれ桜は大木でそれは見事だった。儀ちゃんは大喜びで「ようし、来年は庭で花見だ。仲良しにいっぱい来てもらって」と張り切って言った。翌年儀ちゃんは四月に入るとすぐ植木屋さんを呼んで「今年の開花はいつ?満開の日は?」としつこく聞きました。「そうですねえ、四月の一週目位かな? 花見会をなさるようなら四月の一番早い日、その第一日曜位が満開でしょう」との判断を聞き「我が家の庭のお花見に是非お越しください」と招待状を百人位の方の方にお出しした。
お料理はホテルグリーンタワー幕張さんにケータリングをお願いし、私もおでんをつくった。多古米を持って行っておにぎりも頼んだ。だけど、だけど…桜が咲かない。何輪かは咲いているが満開には程遠い。
家中のストーブ、親戚のストーブまで借りて儀ちゃんは「花を暖めて咲かせろ。夕方までは大分咲くだろう」と言うけど…。おまけに雨が降って来てしまった。儀ちゃんは「テントだ。確か銀行とかテントがある家がある筈だ」と命令。お手伝いに来て下さっていた方々が八方に走り大きなテントを三つ庭に張った。

夕方になるとお客様が次から次に来て下さる。テント内にご案内して「とんだ雨になってしまい申し訳ございません」私がお詫びを言うと「いいや、これも趣があっていいよ」とおっしゃりながら早速酒を飲み交わす優しい方々だった。
その当時はまだ千葉に存在していた芸者さんにも来ていただいていた。あっちのテントからこっちの人の所へ人々がやって来たりして賑やかだった。あまりひどい雨じゃなかったのも幸いして、なんとなく庭全体が盛り上がった。
夜になっても電球は庭のあちこちにいっぱいつけてあったので、昼のように庭が明るい。ケータリングの料理も次々に運ばれお酒も思った以上飲んで、雨の花見はなんとか成功した。
多古米でたのんだおにぎりは一番評判がよく一番残ったのが私のつくったおでん。「あーあ、これから三日間のおかずはおでんだな」と私はげんなり。
いくらストーブであたためても花のないテントの中のお花見は思ったより大成功に終わった。ごきげんな儀ちゃんだった。
実は私、儀ちゃんの初恋の人も電話でお誘いしたのだったが、
彼女「入れ歯の具合が悪いので行かれない」と断ってきた。儀ちゃんには「やっぱり来られないそうよ。残念ねぇ」と話したが、まだ若かった私は「ウッヒッヒ」と笑ってしまった。今では私も歯で苦労してんだけどネ。


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